第22回護蹄研究会 学術集会(発表抄録集)

2022/10/29-30 日本獣医生命科学大学(東京)にて開催された第22回護蹄研究会学術集会では多くのご参集と活発な議論を賜り開催されました。運営・会場・関係各位、ご協賛いただいた企業各位に改めて御礼申し上げます。
 ところで、今回は会場での撮影・録画を制限させていただいた代わりに、ご許可を頂いた演題に限り、この場で発表抄録と内容のPDFを掲載いたします。今後の研鑽にご活用ください。改めて、各演者のご意思に感謝申し上げるとともに、閲覧者様におかれては貴重な内容を敬意と節度を持って閲覧され、決してSNS等で拡散されることの無いようお願い申し上げます。
 また、ご質問がある方は、このHP「お問い合わせ」のコーナーから所属・お名前を明らかにされて、「演題名***についての質問」と明記した後、簡潔に質問してください。事務局から演者に伝え、HP内にて公開する所存です。ふるってご活用ください。

 2023年は、第23回の本会を、実習を取り入れた北海道大会とする予定でございます。本年も、皆様方が健康で、かつ牛蹄の健康にますます貢献されますようご祈念申し上げつつ・・
       護蹄研究会 会長 阿部紀次(2022年1月4日)

目次
基調講演1:顧客牧場における護蹄アプローチ(濱田将臣)
基調講演2:蹄病制御の現状と今後(中村聡志)
話題提供:新しい削蹄法の試み(沖田太一)
一般演題1:下腿部筋損傷・起立不能状態から回復した肉牛の1症例(伊藤ひまり)
一般演題2:有孔ラバーマットの可能性(阿部紀次)
一般演題3:乳牛の同一肢両側蹄角質疾患に対する部分的蹄底ブロック装着とキャスト固定の併用療法(菊池允人)
一般演題4:初産牛の蹄角質疾患とゲノム情報との関連(中村聡志)
一般演題5:乳牛の同一肢に生じた内外蹄病変に対してハーフリムキャストを行った13症例(鳥羽雄一)
一般演題6:ホルスタイン種育成牛の趾皮膚炎多発農場における治療効果の検証(角田偵徒)
一般演題7:自作鎌型蹄刀の耐荷重試験について(久津間正登)
一般演題8:蹄ブロックの失敗例(沖田太一)
一般演題9:市販虫除けスプレーによる牛体への忌避効果(中野目正明)
一般演題10:牛の抗菌性蹄ソックスの開発と装着効果の検討(磯 日出夫)
一般演題11:護蹄研究会の削蹄法私案(眞鍋弘行)

基調講演1
顧客牧場における護蹄アプローチ

濱田将臣
株式会社 ボーバインベットサービス 
【はじめに】
農場における護蹄の失敗は、蹄病が原因で牛が淘汰されることである。このような牛には手遅れの症例が多い。手遅れの症例の代表は深部感染とヘアリーアタックではないか。
手遅れにならないためには、早期発見早期治療が重要である。これには発見と治療が同時に行える農場スタッフによって蹄病治療が行われることが望ましい。農場が自らで蹄病治療を行なうにはどのようにサポートすればよいか。さらには、筆者の顧客牧場が実施している蹄病を予防するための環境改善について述べる
【農場が自分で蹄病を治せるように】
まずは、牛をきちんと保定できる施設が必要である。筆者はコンフォートシュートを推奨している。顧客牧場の約8割がこれを所有している。次に刃物である、これはロトクリップをディスクグラインダーに取り付けて使用してもらっている。最後にどうやって削るかである。最初は削蹄定規を使ってもらい、少し慣れると基準蹄を筆者が削蹄し、これをガイドラインに農場スタッフに切ってもらう。ブロックの取り付けや被覆材の使い方もマスターしてもらう。
ここからが重要である、ある程度蹄病を自分で治せるようになると、蹄病は治りそうで治らない疾病であることに気づく。事実、一度変形した蹄骨や蹄球枕は元通りにはならない。また、DDの原因菌は免疫と薬剤が届きにくい場所に存在している。これを踏まえ農場が予防につながる施設投資にシフトしていくことが望ましい。
【農場の環境を改善する】
蹄病に関係する因子として、固いコンクリート上での佇立時間が長い、牛床のクッション性が低い、蹄が糞尿にまみれて湿潤状態、歩行中のスリップが多いなどが挙げられる。秋に角質病変の蹄病が多いのは、夏場の佇立時間が長いことが関係している(グラフ1)。牛は体温が上昇すると放熱の為に立ち上がり、体温が下がると横臥する。牛舎を囲って日差しを遮断し、牛体に十分な風速を当てることが重要である。さらに直接水で牛を濡らして体温を奪う。これらの暑熱対策を毎年すこしずつでも更新していきたい。牛床のクッション性に関しては、砂やコンポスト、マットという選択肢がある。最近のマットは進歩しておりマットが原因で飛節が腫れている場合は非常にもったいないといえる。肢下の湿潤環境は、その農場の、堆肥舎のキャパシティや除糞にかけられるスタッフの人数と時間が直接関係している。加えて、DDで跛行する牛(跛行スコア3以上)はM2ですら3割(グラフ2)という問題が農場での予防に対しての危機感のなさとDDの症例数の間にギャップを生み出している。牛舎の通路は、日々の除糞作業による経年劣化で滑りやすくなる。滑走事故が出る前に通路の溝切りを行ないたい。

基調講演2
蹄病制御の現状と今後

中村聡志
株式会社 ノースベッツ
【はじめに】牛の蹄病は、栄養、環境・管理と牛の生体とが複雑に絡み合い発生する多因子疾患である。その病因論については、広く研究され、多くの研究成果を基にした多角的な予防策が生産現場で実践されている。蹄病予防策が奏功して、蹄病制御に成功している農場がある一方で、未だにその制御に失敗している多くの農場があるのが現状である。農場ごとに、最適な方法を模索し、高いレベルで実践していく事が重要である。 蹄病制御の方法において、外的要因からのアプローチ方法としては、ある程度確立されてきており、今後もその方向性は変わらないと考えられる。しかし、それに加えて、今後は牛の“変化”への対応について考えていく必要がある。近年、牛の遺伝的能力は飛躍的に向上しており、特に乳量の増加は著しい。今後も“高泌乳化”の流れは加速する事が予測される。このような牛の“変化”に伴って、蹄病制御の方法にも“変化”が必要になってきていると感じる。これからの蹄病制御を考える上で、“高泌乳化“は重要なキーワードになると考える。今回は、乳牛の高泌乳化に焦点をあて、高泌乳化が牛にどのような変化をもたらしその変化がどのように蹄病と関連するのか考えてみたい。
【蹄病制御の現状】蹄病制御は代謝的要因と物理的要因の両方からのアプローチが必要である。実際に酪農の現場では、代謝的要因の制御として、アシドーシスの制御と酸化ストレスへの対応、物理的要因の制御として、横臥時間の確保、暑熱ストレス対策、定期削蹄による蹄形状の維持、などが実践されている。代謝的要因と物理的要因の両方が重要である事は確かであるが、2019年に浅草で開催された「反芻動物の国際蹄病学会」で、ドイツのMülling先生は、蹄病発生には代謝的要因よりも物理的要因の方が大きく影響していることを強調した。蹄形状の維持や横臥時間の確保など、蹄真皮への機械的ストレスの低減は、蹄病制御において最も重要であることを認識する必要がある。当社顧客農場においても、これまで、アシドーシスリスクを最小限にする栄養管理にも取り組んできたが、やはり、ベットの快適性や削蹄方法の変更が蹄病制御により効果的であった事を実感している。今後も、これまでの蹄病制御の方法の精度を高め、農場ごとに最適化された方法について検討していく必要がある。
【乳牛の高泌乳化】北米の種雄牛の平均NM$は2000年から2004年の5年間で平均19.01ドル/年増加したのに対して、次の5年間では47.72ドル/年、更に次の5年間では84.87ドル/年増加しており、その改良速度は年々増している。北米の精液を主体として改良されている日本の乳牛においても、改良速度は加速しており、乳量が著しく増加している。北海道の一頭当たりの年間平均乳量は、2010年が8839㎏であったのに対して、2021年には9843kgまで増加し、この11年間で約1000㎏増加した。実際に繁殖検診を行っていても、分娩後30日から45日でのフレッシュチェックで一日の乳量が60㎏を超える牛の割合が増えており、乳量増加を肌で感じている。乳牛の高泌乳化は、蹄病リスクを高める事が報告されている。その理由として、1)高い乾物摂取量はアシドーシスリスクを高める、2)高泌乳牛は採食時間が長いため起立時間が長い、3)高泌乳牛は遺伝的にBCSが低く、結果としてデジタルクッションが薄い、などが考えられる。このような牛、もしくは牛群に対して、どのような蹄病制御の方法をとるべきか、今後考えていく必要がある課題である。
【蹄病制御の今後】蹄病制御において、これからも代謝的要因と物理的要因からのアプローチが重要である事は変わらない。しかし、牛の変化に伴ってそのアプローチの仕方は、少しずつ変化させていく必要がある。牛の高泌乳化への対応は、蹄病制御だけではなく、栄養管理や繁殖管理、乳質管理など、牛群管理全般において同様の事がいえる。
 これまでの蹄病制御に関する研究は、栄養管理や施設、削蹄方法などの外的要因を対象とするのが主流であった。今後、高泌乳化がさらに加速する事を考えると、牛側の要因についても研究を進め、蹄病に抵抗性が高い牛で牛群を構成していくための改良や選抜方法についても検討していく必要がある。また、現場での仕事においても、牛側の要因への介入が必要である。そのためには、栄養管理や飼養管理方法に加えて、改良や選抜方法についても言及できる知識と経験が重要である。

話題提供
新しい削蹄法の試み

有限会社 ライズ
沖田太一

一般演題1
下腿部筋損傷・起立不能状態から回復した肉牛の1症例

〇伊藤ひまり1) 安藤利子1) 岸田美月1) 狩野春香1) 伊藤萌楓1) 清水純奈1) 西山美優1) 
阿部紀次2)
酪農学園大学 肉牛研究会, 2)㈱トータルハードマネージメントサービス
【背景】
酪農学園大学肉牛研究会は、サークル活動の中で肉牛(和牛13頭、短角3頭、アンガス2頭)の繁殖・肥育・出荷を行っている。今回、アンガス16ヵ月(464日)齢(肥育中期526kg出荷予定5ヵ月前)が、管理失宜から脱走、転倒により両下腿部筋損傷にて起立不能状態に陥った。重度筋肉損傷を負ったことから肉牛としての予後はついえたと思われたが、部員の総意で1ヵ月間の看護を主とした治療を行うこととした。【目的】両側の重度な下腿部筋損傷・起立不能牛状態から回復した肉牛の肥育牛としての成績と、治療・看護方法の検証。
【症例】当該牛は独房で飼養されていたが、施錠の確認不足で脱走し、群飼用の連動スタンチョン前の狭く深い飼槽に入り込み転倒。ヘッドスライディング状態で約3時間もがき、両側の下腿部筋を挫滅損傷した。第1病日から第5病日においては、筋損傷の状態を調べるために血液検査や、吊り上げ、1日3回の寝返り、鎮痛剤投与を行った。これに加え、患部のマッサージ・患部消毒(キトサイド)・患部保湿(チンク油)を1日3回行った。第5病日以降は管理場所をより目が行き届く大学農場に移し滑り止めと敷料を増した。しかし、両後肢は頭側に引き付けられずに尾側方向に流れるため、両後肢を首で牽引する「ネクタイ」を装着した。第16病日に、ホブルが食い込んでいるためプラスチックガードを装着したところその夜自立した。以後は寝返りを行わず、飼養管理の目標を出荷までの期間と変更した。また、第21病日以降はトレイルカメラを用いた行動調査を行った。
【結果】事故翌日4月7日の血液検査では、GOT 6210 IU/l、CK >20000 IU/l、LDH >9000 IU/lと高値を示し、非常に強い筋損傷が疑えた(患部の皮膚が象皮状で硬化しており、痛みが強くエコー診断は行わなかった)。しかしながら献身的な看護と、ネクタイとプラスチックガードという創意工夫により自力で起立したことから、出荷を目標に方針変更できた。その後肥育し、779日齢で出荷を行った。枝肉等級はA-2であった。また、廃棄された部分は両後肢で約10㎏程度であった。
【考察】今回の症例から、家畜の回復には牛の状態(能力)と獣医師の診断治療、および飼養者の意志と労力(看護力)、これらの三要素がうまくかみ合う必要があることを痛感した。また、管理者側は人的ミスの要因をなくし、リスク管理を徹底することがそもそも大事であることも改めて認識した。
肥育中期の肉牛に対して、両後肢下腿部筋損傷・起立不能状態から、獣医師と部員による“治療と看護を皆の総意で”行い、生産動物として利用する(肥育・出荷まで成就する)ことを実体験した。

一般演題2
有孔ラバーマットの可能性

阿部 紀次1 佐藤綾乃2 片山正幸5 稲森 剛3 小松 真人4 森田 茂4 加藤 敏英2 
1.(株)トータルハードマネージメントサービス2.酪農学園大学獣医学類生産動物医療学, 3.同大附属農場, 4.同大家畜管理・行動学,5.有限会社カタヤマ
【はじめに】牛の起立時の行動学的研究では、体重のほとんどを前膝が負担した直後、後肢の蹄尖付近の小面積で大きな接地圧を負担することが解析されている。そこで、牛床面には高圧力を受けた際に変形する性質が望まれる。分娩前後、起立横臥行動がおぼつかない牛や、起立異常を呈する牛への治療・看護方針は、①基礎疾患の治療、②体圧分散、③安静を確保し、出来るだけ速やかに回復させて群に戻すことである。そこで、分娩や治療を行うための独房を有している農場は多い。一般的な独房での体圧分散(クッション性)はゴムマットや、敷料で行われているが、衛生にも考慮が必要で、体圧分散との両立は容易ではない。そこで今回、雪国の玄関マットや、搾乳パーラー内の人用クッションに用いられている「有孔ラバーマット(以下有孔マット)」を牛独房の床面に応用して、その有効性を症例で試してみた。さらに、有孔マットが削蹄枠場出口で足を滑らせることを予防できるかどうかも観察した。
【材料および方法】症例1:蹄底潰瘍。症例2:低Ca血症。症例3:腹膜炎・飛節関節炎。症例4:低Ca血症(腰角欠損)について検討した。症例1,2は酪農学園大学附属農場の牛房、症例3は同大附属家畜病院の入院房、症例4は同大学附属高校農場の牛房であり、それぞれにおいて、有孔マット設置前の床面は、症例1,2および4(2ヵ所の牛房)の床面は薄いゴムマットであり、症例3ではコンクリートで、いずれも約20㎝厚さの麦ワラが敷料として使用されていた。有孔マットの設置前後での起立動作を動画撮影して比較した。
他方、北海道のある農場での全頭削蹄時の蹄病調査時に、1台の枠場出口にマットを1枚設置し牛の行動を動画撮影した。
【成績】有孔マット設置前、全症例の体躯の下には敷料が存在していたが、後肢端の敷料は足先で掻き除かれ(必然的)下地が露出していた。症例1,2,3では有孔マット設置前の起立時に、後肢蹄尖が鉛直方向に床面を押そうとして滑ったが、持ち直して何とか起立した。症例4は横臥虚脱状態であった。その後有孔マットを設置したところ(1.5x1.0mx6枚)(麦ワラは比較的少量使用)、翌日の起立時には全症例ともに比較的スムーズに起立できた。ただし、マット同士の連結が不十分だと無効であった。
削蹄時、枠場出口の設置した事例では、「敷いてなければ、ひょっとしたら滑走していたかもしれない」例が観察できた。
【考察】足元が不安定で、疼痛を感じれば牛は寝たまま起きないし、逆にずっと寝ないこともある。起立して十分な食餌や水摂取が行われ、ストレスのない環境でゆったりと横臥反芻することで産後や疾病からの回復も早まる。逆に、軽度の低Ca血症や神経麻痺のはずが、大きな滑走や予期せぬ乳頭損傷を誘発して予後が一変することもある。有孔マットは設置が簡単なので牛が換わるたびに清掃することが可能である。分娩牛はさっさと群に戻り、治療牛は早くよく治れば牛房利用回転が良くなる。すなわち起立行動が改善することは、牛の居住環境および治療環境の改善につながると期待できる。
また、削蹄枠場から退出する牛の中には慌てて滑りかける牛もいる。枠場出口の有孔マットは、最初の一歩目を落ち着いて踏み出させることに繋がることが期待できた。

一般演題3
乳牛の同一肢両側蹄角質疾患に対する

部分的蹄底ブロック装着とキャスト固定の併用療法
菊池(キクチ) 允人(マサト)                         
千葉県 ちばNOSAI連
【背景】蹄角質疾患の治療において患肢蹄の健康側底面に木製ブロックを装着する方法は有効であるが,患肢の内外両側の蹄に病変部のある場合は不適であり,接地面を確保し病変部の安静を保つことが困難である。本研究ではそのような蹄角質疾患に対して,部分的な蹄底ブロックの装着と蹄全体のキャスト固定を併用した治療を試みた。
【材料および方法】1)対象:2015年7月から2019年7月に,管内7酪農家で飼養され患肢の内外両側の蹄に病変があり,重度の跛行を示した蹄角質疾患罹患牛7頭7症例。
2)処置および材料:枠場にて患畜の患肢を拳上し,内外蹄の病変部を確認した後,一方の蹄の病変および疼痛のない蹄尖部にのみ,長軸に対して垂直に鋸断した木製蹄底ブロックを装着した。病変部に抗生物質および軟膏を塗布し,ブロック装着面を除いた蹄底に緩衝剤として脱脂綿をブロックと同程度の厚さになるよう当て,下巻きとして伸縮性包帯を巻いた。その後蹄全体および副蹄を被覆するようにグラスファイバー製キャスティングテープ2本を巻き,水をかけてモールディングした後,患肢の保定を解除して自然な起立姿勢で硬化させた。処置後10日程度の経過観察の後,枠場にてキャスト,伸縮性包帯およびブロックを除去し,必要があれば脱脂綿と伸縮性包帯のみを用いて再度治療を行った。経過観察中に跛行が悪化したものは本法による治療を中止した。
【成績】罹患肢は全症例で後肢であった。7症例中6症例では処置直後から跛行が改善し,キャスト除去時には病変部の疼痛減少,角質形成が認められ,その後治癒となった。治癒しなかった1症例は蹄深部感染があり,本法を中止した後,通常の蹄病治療と抗生物質の全身投与を継続したが完治せず淘汰された。7症例中5症例では反対側の後肢にも角質病変がみられ,通常の蹄病治療を実施した。
【考察】同一肢の両側蹄に病変があった7症例に対して,蹄底ブロックの部分的な装着とキャスト固定を併用した結果,6症例で良好な治療成績が得られた。その内3症例は既に通常の蹄病処置が実施されていたが,本法の実施により経過が好転した。ブロック,脱脂綿,キャスト固定の併用により病変部への圧迫や歩行時の刺激など,創傷治癒の阻害要因が軽減されたことが有効であったと推察された。深部感染を伴う症例は適応ではないと考えられ,本法を実施するにあたっては慎重に病態を見極める必要がある。

一般演題4
初産牛の蹄角質疾患とゲノム情報との関連

株式会社ノースベッツ
中村聡志
【はじめに】蹄病予防においては、栄養管理、施設、削蹄、跛行牛の早期発見・早期治療が重要とされている。また、これらの要因に関する多くの研究報告があり、酪農現場でも実践されている。このような蹄病予防策が実践されている中で、蹄病に罹患しない牛がいる一方で、同じ餌、同じ環境で管理されていても蹄病に罹患する牛が一定割合存在する。つまり、蹄病は外的要因と牛の生体との相互作用によって発生する複雑な疾病であり、その制御には牛側の要因も考慮する必要がある。しかし、牛側の要因と蹄病に関する研究報告は少なく、酪農現場で実践可能な方法は提案されていない。本研究は、初産牛の蹄角質疾患罹患と、ゲノム情報との関連を明らかにすることを目的として、全頭ゲノム検査を実施している1酪農場において初産牛の蹄角質疾患とゲノム情報との関連を解析した。
【材料および方法】研究対象の酪農場は、北海道湧別町の経産牛約240頭の1軒のフリーストール農場である。この酪農場において、2015年9月から2019年7月の間に分娩した初産牛でゲノム検査を実施した400頭の内、1年間で3回以上削蹄が実施された114頭を対象牛とした。ゲノム検査は、血液、もしくは組織サンプルをZoetis社(アメリカ)に送り、その結果を得た。3回の削蹄記録において、一度でも蹄底潰瘍/白帯病の記録があった牛を蹄角質疾患あり、なかった牛を蹄角質疾患なしとした。解析は、一般化線形モデルで実施した。蹄角質疾患の有無を従属変数とし、ゲノム検査の結果(DWP$、Milk、LR:Rear Legs Rear View、FA:Foot Angle、FLS:Feet/Legs Score)、初産分娩月齢、305日乳量を独立変数として、オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。変数の選択は、AIC(赤池情報量規準)を基準とし、AICが最小となるモデルを選択した。統計ソフトはR Studio 2022を使って解析した。
【結果および考察】3回の削蹄記録から、蹄角質疾患ありは37頭、蹄角質疾患なしは77頭であった。一般化線形モデルのモデル選択では、DWP$、Milk、305日乳量の3つの組み合わせが最小AICモデルとして選択された(AIC=116.42)。解析の結果、Milk(OR:1.040, 95%CI:1.012-1.072)とDWP$(OR:0.995, 95%CI:0.992-0.998)が統計的に有意な因子として抽出された。結果から、ゲノム検査結果を基準とした改良及び選抜により、蹄病に抵抗性が高い牛群をつくれる可能性が示唆された。また、今回の研究では、114頭という比較的少ないサンプル数にも関わらず、初産牛の蹄角質疾患とゲノム情報との関連が確認された。今後、さらにサンプル数や研究対象農場を増やして、同様の結果が得られるのか検証していく必要がある。

一般演題5
乳牛の同一肢に生じた内外蹄病変に対してハーフリムキャストを行った13症例

鳥羽雄一
知多大動物病院 三重分院
【はじめに】乳牛の能力を最大限発揮させるため、またアニマルウェルフェアの観点から跛行の早期発見治療は重要視されている。多くの蹄病(角質病変)は早期発見と適切な治療で、疼痛を取り除き治癒へ向かわせることができる。
角質病変において、健康蹄にブロックを装着し病蹄に負重がかからなくする治療方法が一般的に用いられているが、ブロックの装着が不可能・ブロックを装着するもブロック下に病変ができてしまいブロックを除去するしかなく、病変部の免重が不可能な病変では治癒に時間がかかり、疼痛コントロールの不十分により採食量の低下・乳量の低下を引き起こし廃用のリスクが上昇する。本症例ではこれらの病変に対してハーフリムキャスト(キャスト固定)を実施し治療効果が認められたので報告する。
【材料および方法】平成29年5月~平成29年11月に管内3農場で治療依頼のあった症例のうち、ブロックが装着できなかった8症例(SUSU2、SFSU2、SFうすい1、SFWD1、うすいTU1、TUTU1)、ブロック装着するもブロック下に病変ができてしまった5症例(ハードシップライン1、TU2、SF1、WD1)に対してハーフリムキャストを実施した。治療は削蹄・病変部の処置(病変部の開放・薬剤塗布・伸縮包帯でバンテージ)を行った後、オルソラップ3号(10㎝×3.6m)が2~3層になるように下巻しその上に伸縮包帯をオルソラップが半分くらい沈みこむように圧をかけながら巻き、その後キャストライト4号を転がしながら軽い緊張を加えつつ飛節下もしくは前膝下から蹄尖までを完全に覆い丁寧にモールディングしながらキャスティングした。キャストライトαは多くの症例で4本用いた。
悪化が見られなければ1週~3週の間隔でキャストを交換しつつ跛行と角質化の経過を見ながら治療を行い、病変部に十分な角質化が見られたら、その後の経過を観察した。【成績】10症例ではキャスト除去後、病変部は十分な角質化をしており治癒と判定した。2症例ではキャスト除去後、病変が軽度な蹄に十分な角質化がみられたため再度ブロックを装着しその後治癒した。1症例では跛行は改善されたが低泌乳を原因に治療期間中に廃用となった。
【考察】人医療においてギブス固定の目的は安静、固定、矯正、免荷とされている。本症例においては、ハーフリムキャストにより病変部への負荷の軽減が、疼痛のコントロール・角質化を妨げる刺激の除去・血流障害の予防を行うことできたことが治癒につながったと思われる。

一般演題6
ホルスタイン種育成牛の趾皮膚炎多発農場における治療効果の検証

角田偵徒1)前田涼汰1)山田紗也1)村上高志1)久津間正登2)阿部紀次3)佐藤綾乃1)1)酪農大生産動物医療学 2)(有)久津間装蹄所 3)トータルハードマネージメントサービス
【はじめに】感染性蹄病変である趾皮膚炎(DD)が酪農業に与える経済的影響は大きく、環境改善や予防が重要であるものの、現代の飼養形態では環境改善は難しく個体治療が不可欠である。今回、育成牛群のDD多発農場において抗菌薬による個体治療結果を報告する。
【材料および方法】試験農場はフリーストール酪農場で年3回の定期削蹄を行っており、観察期間は2021年4月から2022年4月の定期削蹄まで、2021年4月の育成削蹄牛34頭を試験対象とした。病変評価はMステージ分類に基づき正常:M0, 活動性(aDD):M1/M2/M4.1, 治癒:M3, 慢性:M4とした。調査1では、DD肢36肢を対象に2021年4月から8月の削蹄間に2種類の抗菌薬による個体治療を4回行い、各調査日におけるMステージを抗菌薬間で比較することで2種類の抗菌薬治療効果を検証した。aDD治療について、削蹄ではミネラル製剤をスプレー塗布し、抗菌薬治療ではオキシテトラサイクリン(OTC):20mg/gもしくはセフチオフル(CTF):40mg/gを白色ワセリンに練り込んだ2種類の軟膏どちらかを選択し塗布した。調査2では、aDD肢36肢中後肢27肢と同時期削蹄育成牛でM0後肢41肢の経過を比較した。統計処理としてχ二乗検定もしくはFisherの直接法を用い、P<0.05で有意差ありとした。
【結果】調査1では、aDDは観察開始2週間後には有病率0%まで減少し、抗菌薬治療期間内では2.8%に留まったが、最終治療から2か月の間隔が空いた4カ月後の削蹄では22.2%まで増加した。OTC治療群22肢とCTF治療群14肢による抗菌薬治療の比較において、aDD、M0、M4肢数に有意差は認められなかった。調査2において、aDD肢はM0肢に比べ8カ月後も有意にaDDの割合が高かった一方で、M0肢はaDD肢に比べ4,8,12カ月後もM0の割合が有意に高かった。
【考察】抗菌薬によるaDDの個体治療は一見すると良好な結果が得られたが、M0に推移せずM4に推移する肢が半数程度生じたことから、真の治療効果については課題が残る結果となった。CTFは、OTCと同等の治療効果しか示さず優位性は認められなかった。一方で、初回観察でM0だった肢の多くがM0で推移したことから、育成初期における予防の重要性が示唆された。

一般演題7
自作鎌型蹄刀の耐荷重試験について

有限会社 久津間装蹄所 久津間正登
トータルハードマネージメントサービス 阿部紀次
【はじめに】祖父が北海道で馬の装蹄から始めた家業は私で3代目となり、現在では年間18,000頭の牛削蹄を、日本の伝統的削蹄方法で行っている。すなわち、欧米のような保定枠を使わず単独保定で、鉈と鎌型蹄刀(以後鎌とする)を主に用いる方法である。単独保定で削蹄する場合、いかにも素早く・正確に・静かに蹄負面の削切を行う必要がある。そのために鎌の切れ味と耐久性は必須である。鎌は、昭和6年(1931年)に旧日本陸軍によって単独装蹄用に製作された日本独自の削蹄用具である。比較的非力な日本人でも扱えるようにテコの原理を応用できる鎌型になっており、鋭い切れ味を持つように刃先は鋼になっている。現在入手可能なのは、市販の量産品と、ほんの数名の削蹄師が自作しているものである。私も、祖父を知る佐藤寛信先生から鎌の製作方法を教わり、受け継いだ方法で自作している。
【目的】鎌は切れ味と強さが必要である。量産品は、切れ味は良いものの、使用している間に折れることがあると聞く。そこで、自作の鎌が量産品とどう違うのか。今回強度について試してみたので、その概要を報告する。
【材料および方法】試験には、量産品(I);佐藤師匠の造った品(S);自作品(K)、それぞれ3丁ずつを用いた。実際に削蹄時にかかる耐荷重を再現するように、鎌の刃が入るよう角材に切り込みを入れ、刃を固定し、刃の付け根から170㎜の柄の部分に金具を取り付けて引っ張ることで実験を行った。鎌とレバーブロックの間に測定器をはさみ、レバーブロックで荷重をかけると、荷重のピークで明瞭な音がして限界点が観測された。それぞれの鎌の耐荷重の平均と標準誤差を求め、ペアワイズの多重比較t検定を統計ソフトRで実施、検討した。
【結果】耐荷重試験において(I)23.7±3.1 Kg;(S)45.3±4.0 Kg;(K)は73.7±2.5 Kgであり、(I)-(S)間、(I)-(K)間、(S)-(K)間で、それぞれ統計学的に有意差を認めた。したがって丈夫な鎌を造る上で、自作の(K)は比較的に優れた強度を持つことが分かった。
【考察】(I)では刃(地金と鋼が貼り付いた板を打ち抜いたもの)と首を溶接していて製作する。対して(S)および(K)は1本の軟鋼に鋼を着け、その1本を曲げながら鍛造してする(鋼が首の部分まで入る)。そのため(S)および(K)は(I)よりも丈夫であった。すなわち、佐藤先生に伝授された1本から造る方法は手間がかかるが、強いということが証明できた。さらに(S)よりも(K)は、首幅を1.7mm太く改良したことが強度向上につながったと思われた。この自作鎌を、今後とも心を込めて作製し、鎌で削蹄を行う人たちへ1本でも多く提供し、伝統的な日本の削蹄を今後とも自信をもって伝承していきたいと考えている。なお、切れ味については今後の課題としたい。
【謝辞】丹精込めて造られた鎌を壊す実験にご賛同くださった今井製作所、師匠の佐藤先生に深謝致します。

一般演題8
蹄ブロックの失敗例

沖田 太一
有限会社ライズ
 蹄病処置において、蹄ブロックを健康蹄に装着することは患部を免重し治癒を促進するために有効な手段であるが、着け方を誤ると逆効果の場合がある。今までの経験から失敗例を紹介したい。
ケース1: 健康蹄だと思ってブロックを装着したが、装着した蹄にも蹄病があった
  対策 ブロック装着前にテスター(検蹄器)で痛みがないかチェックする
 (正しい削蹄とマドリングをせずにブロックを着けると、蹄病を見逃しやすい)
ケース2: ブロックが蹄病のある蹄側に干渉している
  対策 干渉しない位置に装着する。干渉の可能性がある部分を削り、調整する
ケース3: 健康蹄の負面、またはブロックの面が蹄病のある蹄側に傾いており、患部が免重できていない
  対策 ブロックの面が趾軸に垂直あるいは患部が免重できるように削り傾ける
ケース4: 長期間、装着していて健康蹄に新たな蹄病が発症してしまう
  対策 必要がなくなったら速やかにブロックを外す

演題番号9
市販虫除けスプレーによる牛体への忌避効果
福島県装削蹄師会  中野目正明
削蹄作業中、競技会のハエ、さしばえ、アブ、蚊の防虫殺虫対策については通常市販の殺虫スプレー(キンチョール等)を用いて殺虫しているが現状です。殺虫スプレーの使用では、使用薬剤、ストレスにより気分が悪くなったり、頭が痛くなる方も多いのではないでしょうか。
何か良い物がないか?
市販虫除けスプレーを試してみました。
まず比較から
殺虫スプレー  成分ピレスロイド  価格¥500程度  使用頭数90頭程度
虫除けスプレー 成分ディート   価格¥400程度  使用頭数100頭程度
虫除けスプレーの方が安全性、経済的に有効であります。
動画流します。
わかりやすいように管にスプレーしてみました。これは九月に撮影したものです。管にハエが付いていますが、虫除けスプレーかけると瞬時に居なくなります。スプレーがからないかった藁の部分にはまだハエがいます。効果が一時間は続きます。動画はありませんが、アブにも同じ結果が出ています。噴霧量は微量(サッとかける程度)で効きますので、気分が悪くなることもありません。
これは、削蹄はもちろんのこと、共進会、セリ、測尺、人工授精、診察、競技会、等にも応用できるのではないでしょうか

一般演題10
牛の抗菌性蹄ソックスの開発と装着効果の検討
  
〇磯日出夫1)、山下洸輝1)、北山しおり1)、内山史一1)成田卓2)、木村隆太3)
磯動物病院、2)野澤組、3)イフォス
はじめに
近年、乳牛の疾病は著しく減少傾向にあると言われている。その要因として、飼養管理技術の向上と遺伝的ゲノム改良の成果によるものとされている。しかし、蹄病については飼養管理に加えて牛舎環境の劣悪性に起因するところが大きいため、発生を減少させることは困難な場合が多い。よって、牛削蹄師による早期の定期蹄検査と処置で対応していることが一般的である。その時に蹄保護および蹄病処置の目的で、伸縮性包帯の使用が汎用されているが、それ自体には抗菌性はなく、耐久性が低いとの問題点がある。そこで今回、蹄保護および蹄病治療効果の目的で、蹄ソックスを考案したのでその概要について報告する。
材料および方法
蹄ソックスの素材はナノレベルの多孔性物質に純銀と純銅を担持させた繊維で編んだもの。従来の銀イオンによる抗菌性繊維にくらべて、今回のものは表面の銀の露出面積が高く、さらに高い抗菌・抗ウィルス性を有し、高い耐久性のあるものを供した。また、形状はソックス型で、外蹄および内蹄部分は露出させ、副帝まで被覆できるもの。性質は伸縮性があり、蹄の大きさにより密着させるためにそれぞれS,M,Lの3種類を供した。試験対照として、汎用されている伸縮性バンテージを用い、試験区1の蹄保護として、装着性、脱着性、持続性、耐久性。試験区2の蹄病治療効果は蹄低潰瘍、疣状皮膚炎、趾間腐乱について比較した。
成績 

試験1抗菌性装着性脱着性耐久性持続性
対照区××××
試験区
試験2蹄低潰瘍疣状皮膚炎趾間腐乱
対照区
試験区×

考察
今回の試験では十分な期間および多くの個体で行うことは難しい状況であったため、詳細な試験結果は得られず、主観的な結果となった。蹄保護での結果では蹄ソックスは有用であった。しかし、蹄病治療効果では蹄ソックスでの抗菌性の特徴による違いは不明であったが、疣状皮膚炎および趾間腐乱による有用性は蹄ソックスによる保護性によるものと考えられた。よって、今後さらなる詳細な試験および客観的なデータの必要性があるものと考えられた。

一般演題11
護蹄研究会の削蹄法私案

削蹄塾 わたりがらす
眞鍋 弘行
目的
日本装削蹄協会の削蹄法は、単独保定による削蹄を中心に構成されている。つまり、保定枠場・電動グラインダーを用いず、鉈・鎌等による削蹄法である。しかし、枠場・グラインダー削蹄ならば、単独保定では作業が難しい牛でも、固い大きい蹄でも、さほどの個体差による違いはなく削蹄できる。道具は違っても、牛は同じなのだから削蹄の結果、つまり出来上がった蹄は同じでなければならない、という考え方もあるが、グラインダー削蹄用の削蹄法を導入すべきだと考える。
削蹄の目的
平らな負面を内外蹄それぞれに作る
基本削蹄
 内外蹄の大きさがバランスした、安定した負面を持つ蹄に対する削蹄法
蹄の最大横径部と同じ長さを負面の後端部から測り、
蹄の中線と直角になるように内外の蹄尖を切る。
切断面は負面と45度になるようにする。
蹄尖の断端の厚さを5mmとり、負面の後端に向かって
平らな面を作る。今ある負面の蹄尖部を削り蹄角度を立てる。
蹄尖に蹄形に合った丸みを持たせる。
土踏まずを作る位置は最大横径部の仮想線上の軸側から
外蹄1/2、内蹄1/3を削り内外蹄の負面面積がバランス
するようにする。深さはゆで卵の半割をイメージして
削り取る。土踏まずの先端は軸側蹄壁の終わる
ところ(軸側溝の始まるところ)より先には作らない。
討論
一つの削蹄法に集約するのを目的とせず、討論の中で各自の
削蹄法を言語化することで、より良い削蹄法を作り上げてはどうだろうか。